【第4回】遺産の評価

第4回は、「遺産の評価」です。

すべての遺産を換金して分割する場合(換価分割)や、すべての遺産を各相続人が一定の割合で共有する方法で分割する場合(共有分割)には、特別受益や寄与分がない限り、遺産の価値を評価する必要はありません。

しかし、遺産のうち不動産はAに、預貯金はBに取得させる場合(現物分割)や、不動産はAに取得させ、その代償金をAがBに支払う(代償分割)等の場合、公平に遺産を分割するためには、遺産の価値を評価する必要があります。

そこで、今回は、遺産の評価の方法を見ていきましょう。

第1 遺産を評価する時点

遺産を評価する際には、現実に遺産を分割する時点の価値を評価することになります。

そのため、例えば、遺産である不動産について、被相続人が亡くなった時点では1000万円の価値だったものが、現実に遺産を分割する時点では2000万円の価値になっていた場合、不動産の価値は2000万円と評価するのです。

※なお、特別受益や寄与分が関係する場合には、現実に遺産を分割する時点の価値に加えて、被相続人が亡くなった時点の価値も評価する必要がでてきます。

第2 実際の評価方法

遺産の評価につき相続人間で合意が成立しない場合には、最終的に、裁判所における鑑定(不動産鑑定士、公認会計士、税理士等が行います。)を用いて、遺産を評価することになります。しかし、鑑定には、数十万円以上の費用がかかります。

そこで、遺産の評価の順序として、
① まずは、様々な資料を基にして、遺産の評価につき相続人間で合意することを目指します。
② 合意が成立しない場合には、裁判所の調停手続きの中で、家事調停委員の意見を聴取する場合もあります。
③ どうしても合意が成立しない場合には、最終的に、裁判所の鑑定を用いて遺産を評価することになります。

具体的に見てみましょう。

1.相続人間の合意

まずは、遺産の評価につき、相続人間で合意することを目指します。

合意をする際には、例えば、不動産会社の査定書や公示価格等、様々な資料を用いることになります。参考となる資料は、「第3 遺産の種類ごとの参考資料」において解説します。

2.家事調停委員(専門委員)

裁判所の家事調停委員の中には、不動産鑑定士公認会計士の資格を有する人がいる場合があります。

この場合、①当該家事調停委員の意見を聴取する②当該家事調停委員も調停委員会の一員となる等の方法により、関与する場合があります。

具体的には、①紛争性が高くないこと、②家事調停委員(専門委員)の意見を尊重し、鑑定を行わない合意があること、③評価の対象物件が少ないこと、④当事者に鑑定費用を支出する経済力がないこと、⑤評価の対象物件が裁判所管内の住宅地であること、⑥個別の事情調査が必要でないこと等の要件を満たす場合には、家事調停委員(専門委員)が関与する場合があります。

3.鑑定

裁判所が、不動産鑑定士や公認会計士を鑑定人に選任して、遺産の評価を行うものです。

鑑定費用は、調停中の鑑定の場合、原則として法定相続分に応じて、各相続人が予め納めることになります。ただし、相続人の一部が出頭していない場合には、申立人が立て替えることもあります。各相続人が合意すれば、遺産のうち預貯金や現金から鑑定費用を支出することもできます。具体的には、①合意に基づき相続人が預貯金の払戻しをする、②審判前の保全処分として遺産管理者を選任し、遺産管理者が預貯金の払戻しをする方法が考えられます。

鑑定が必要であるにもかかわらず、鑑定費用を当事者が予納しない場合には、国庫立替の可能性もあります。

審判の場合には、裁判所が、費用負担の定めをします。相手方に対しては、受益の限度で負担を命じることが多いといえます。

なお、非上場株式の株価を鑑定する場合には、会社所有の不動産の鑑定も必要になります。

鑑定から1年以上経過した場合には、再鑑定をする場合もあります。

※建物の鑑定
注意すべきなのは、建物を鑑定する場合、評価方法の関係で、最近建築した建物の評価が時価より安くなり、耐用年数を超過した建物の評価が時価より高くなる傾向があることです。

第3 遺産の種類ごとの参考資料

先程述べたとおり、遺産の評価につき、まずは相続人間で合意することを目指します。その際に参考となる資料は、以下のとおりです。

1.不動産

不動産の評価は、本来、現実の取引時場面で成立する価格(実勢価格)とすべきです。しかし、実勢価格は実際に取引しなければ分かりません。また、裁判所における鑑定も費用がかかります。

そこで、より簡便な方法として、不動産の価格について相続人間で話し合う時には、不動産業者の価格査定書が用いられることが多いといえます。

もっとも、不動産業者によって査定額の差が大きいこともあります。そこで、以下の公的な評価基準も参考にして、不動産の価格につき、相続人間の合意を目指します。

公示価格(地価公示価格)

主に都市計画区域内の特定の標準地について、国土交通省の土地鑑定委員会が公示する価格です。
毎年1月1日時点の正常価格(自由公開市場で通常成立する価格)を複数の不動産鑑定士が鑑定するもので、毎年3月下旬頃に公表されます。

都道府県地価調査標準価格(地価調査標準価格)

特定の基準地について、都道府県知事が公表する価格です。
毎年7月1日時点の価格を1名以上の不動産鑑定士が鑑定するもので、毎年9月下旬頃に公表されます。都市計画区域内の土地以外の林地等も対象です。

固定資産税評価額

固定資産税の基準となる価格です。
3年ごとの4月上旬頃に公表されます。3年に一度しか評価替えをしないため、固定資産税評価額を基準に遺産を評価する場合には、評価替え後の価額の変動を考慮する必要があります。土地の固定資産税評価額は、公示価格の約70%に設定されています。

相続税評価額(路線価)

相続税や贈与税等の基準として、国税庁が公表する価格です。
毎年1月1日時点の価格を路線価方式又は倍率方式(固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて算出する。)によって算出するもので、毎年7月頃に公表されます。相続税がかからない場合でも、数値がでます。路線価は、国税庁のHP(http://www.rosenka.nta.go.jp)で公開されています。
路線価とは、道路に面する標準的な宅地の1㎡当たりの評価額(千円単位)です。例えば、路線価200という表示があれば、1㎡当たり20万円です。土地の面積が100㎡であれば、土地の価格は2000万円となるのです(ただし、実際には土地の形状等を考慮して価格が補正されます。)。土地の面積は、固定資産税の納税通知書や登記事項証明書で確認しましょう。路線価は、公示価格の約80%に設定されています。

具体例
ア 借地権の負担付きの土地

例えば、Aが所有する土地をBに賃貸している場合(Bが借地権を有する場合)の価格を考えてみましょう。

まず、借地権の価格は、更地価格に借地権割合を乗じて評価するのが一般的です。例えば、更地価格2000万円の土地の借地権割合が70%の場合、借地権の価格は、1400万円となります。

逆に、借地権の負担が付いている土地(底地)の価格は、更地価格から、借地権の価格を控除した額になります。例えば、先程の例だと、更地価格2000万円-借地権価格1400万円=600万円となります。

借地権割合は、路線価図に記載されています。

※権利金
現在、都市部では、借地権を設定する場合、借主から貸主に対して権利金を支払うことが一般的となっています。権利金の法的性格は、明確に定められていませんが、借地権取得の対価等の性格を有することが多いといえます。
権利金を支払った借主は、通常、借地権を除いた底地の地代だけを貸主に払えばよいのに対し、権利金を支払っていない借主は、借地権部分も含んだ土地全体の地代を支払払う場合があるという違いがあります。上記の借地権の価格の評価方法は、権利金の支払いがある一般的な借地権の評価方法です。
これに対し、権利金の支払いがない借地権の場合、取引事例比較法による比準価格、通常の賃料と実際の賃料との差額を基礎とした収益価格、慣行的借地権割合、使用借権割合、場所的利益などを総合的に考慮して、借地権の価格を評価する必要がある場合もあります。

イ 借家権の負担付きの土地建物

例えば、Aが所有する土地建物のうち、建物をBに貸している場合の土地建物の価格を考えてみましょう。様々な評価方法が考えられるので、一例をご説明します。この場合、土地と建物の2つに分けて考えると分かり易いでしょう。

1つ目は、土地です。更地価格から、Bの借家権の制限分を控除する必要があるので、「更地価格-更地価格×借地権割合×借家権割合」とします。借家権割合は財産評価基本通達による30%とされることが多いといえます。例えば、更地価格2000万円-更地価格2000万×借地権割合70%×借家権割合30%=1580万円となるのです。

2つ目は、建物です。建物価格から、借家権の制限分を控除する必要があるので、「建物価格-建物価格×借家権割合」とします。例えば、建物価格300万円-建物価格300万円×借家権割合30%=210万円となるのです。

なお、借家権の制限分として控除した額が、そのまま借家権価格になるわけではありません。借家権は、貸主の同意を得ない譲渡は考え難く、取引価格を想定し難いからです。
※ただし、ワンルームマンションやアパート等は、むしろ賃貸している方が市場で好まれる可能性があります。これらの場合、鑑定では、通常、減価されません。

ウ 使用借権の負担付きの土地

例えば、Aが所有する土地をBに無償で貸している場合(Bが使用借権を有する場合)の価格を考えてみましょう。

まず、使用借権の価格は、更地価格に使用借権割合を乗じて評価するのが一般的です。使用借権割合は、堅固建物を所有する目的の場合は20%、非堅固建物を所有する目的の場合は10%となると思われます。例えば、更地価格2000万円の土地の場合、堅固建物を所有する目的の場合、使用借権の価格は、400万円となります。

逆に、使用借権の負担が付いている土地の価格は、更地価格から、使用借権の価格を控除した額になります。先程の例だと、更地価格2000万円-使用借権価格400万円=1600万円となります。

エ 使用借権の負担付きの建物

建物の使用借権は、契約終了による明渡請求が容易であるので、使用借権の価格を控除しないことが多いといえます。なお、同居の親族が居住権を主張することがありますが、独立の権利と認められないことが多く、使用借権の価格を控除しないことが多いといえます。

オ 共有持分権

不動産の共有持分権を有する人は、所有権者とは異なり、不動産を処分、使用、収益するのに他の共有持分権者の同意が必要な場合がある等、制約があります。そのため、単純に不動産の価格に共有持分の割合を乗じるのではなく、共有であることによる減額(20%程度)をします。

もっとも、もともと不動産の共有持分を持っている相続人が、被相続人の共有持分を取得して、持分が100%になる場合には、共有であることによる制約がないので、共有であることによる減額は行いません。

抵当権が設定されている場合

不動産に被相続人を主債務者とする抵当権が設定されている場合であっても、不動産の価値を評価する際、抵当権の被担保債務を控除する必要はありません。

抵当権の被担保債務は、遺産分割の話合い等を要することなく、当然に相続分に応じて、各相続人に分割されるため、被担保債務は不動産とは別枠で考えるのです。そうすると、例えば、抵当権付きの不動産をAさんが取得し、その被担保債務をA、B、Cが負担する場合が生じます。BやCが被担保債務を弁済しない場合、Aは不動産を失うおそれがあります。この場合、Aが、BやCの代わりに被担保債務を弁済したのであれば、Aは、BやCに対し、求償請求することができます(民法911条、567条)。

もっとも、不動産を取得する相続人が被担保債務を弁済することを前提に、被担保債務額を控除して評価する合意をすることは可能です。

なお、不動産に第三者を主債務者とする抵当権が設定されており、第三者の資力が欠如していることが明らかな場合は、抵当権の被担保債務を控除するのが相当です。

土地の分割が必要な場合

土地を分割して相続する場合、分割後の土地の価値を評価するのが相当と思われます。

農地

農地の場合には、農業委員会の評価額を基準とすることがあります。その他、財産評価基本通達を参考とする考え方もあります。

宅地転用の可能性が高い場合には、宅地としての評価額から、宅地転用に要する費用を控除する計算方法が多いといえます。

山林

山林の場合も、財産評価基本通達を参考する考え方があります。

山林上に立木がある場合、基本的には立木も山林の一部として、立木を含めて山林は評価されます。もっとも、立木法による登記や明認方法がとられている場合には、山林とは別に立木を評価する場合があります。

立木の評価には、森林組合や材木商による評価が参考になります。

不動産の売却ができず、取得を希望する者もいない場合

この場合には、①相続人間で競り売りをする、②不動産を0円と評価する、③共有物分割をする等の方法があります。

地番と住居表示

不動産を特定するとき等、不動産の登記を取得することがあります。不動産は「地番」によって登記されているため、「地番」を調べなければなりません。「地番」は、郵便物の配達等の際に使用する「住居表示」と違う場合が多いため、「住居表示」をもとに「地番」を調べる必要があります。

「地番」を調べるには、地番検索サービスブルーマップでの確認法務局への問い合わせ等が考えられます。

2.預貯金や債権

預金通帳の記載や、金融機関から残高証明書を発行してもらうことによって、遺産分割時の預貯金額を明らかにします。

定期預金などは、遺産分割時に中途解約した場合の金額を評価します。

貸金(債権)等のうち、回収できる可能性が低いものや、条件・期限が付されているものについては、それらの事情に応じ減額して評価する必要があります。

3.株式

相場のある株式

上場株式や、店頭登録銘柄株、店頭管理銘柄など、相場のある株式については、日刊新聞や東京証券取引所ホームページのマーケット情報などを見て、最終価格を調べます。

非上場株式

非上場株式の場合、まずは相続税申告書に記載の評価額を参考にします。その他に、例えば、以下の評価方法が考えられます。

ア 純資産方式

会社の純資産額÷株式数で評価する方法です。注意すべきなのは、土地や有価証券等の含み損益を有する資産がある場合、会社の実態を適切に反映しない評価額となるおそれがあることです。

イ 配当還元方式

年間の配当金額を一定の利率(例えば10%)で還元して、元本である株式の価額を評価する方法です。

ウ 類似業種比準方式

類似する業種の会社群の株価と比べて評価する方法です。

エ 収益還元方式式

将来獲得すると予想される1年分の税引後利益を、資本還元率で還元して、株式の価額を評価する方法です。

オ 混合方式

上記の方法を組み合わせて評価する方法です。

※ 税務上は、相続等で株式を取得した株主が、会社の経営支配力を持っている同族株主等になる場合、①大会社は類似業種比準方式(又は純資産方式)、②中会社は類似業種比準方式と純資産方式の併用、③小会社は純資産方式によるとされています。

4.動産

例えば、貴金属や家具などの動産のうち、価値が高くないものは相続人間の話合いで価値を決めます。話合いの際には、相続税申告時の評価額、購入価格、購入してからの経過年数等が参考になると思われます。

価値が高いものについては、例えば、中古車販売業者の査定、美術品商、書画クラブ等の意見、オークションの落札額等を参考にします。

相続人間で競り売りをして、売却代金を遺産に組み入れる場合もあります。第三者に売却して、売却代金を遺産に組み入れる場合もあります。

5.営業権(のれん)

営業権とは、企業の伝統、社会的信用、取引先の存在、特殊な製造方法などを総合した、財産的価値を有する事実関係です。営業権は単なる事実であるため、相続の対象になりませんが、相続人が事実上営業権を取得したことを考慮する必要があります。

評価方法は複雑なため、公認会計士や税理士の評価が必要なことが多いといえます。

6.ゴルフクラブ会員権

ゴルフクラブ会員権の取引相場がある場合にはそれにより、取引相場がない場合には、返還請求可能な預託金額等を参考にすることになります。

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